tasty

 

 (女の子が砂糖とスパイス、そして素敵な何かで出来てるんだとしたら、 彼女は一体どんなもので出来てるの)

tasty

 甘いものって素晴らしい。舌の上で蕩けて解けて、胸の中が暖かくなる。
 辛いものだって素晴らしい。舌の先をぴりっと苛めて、でも身体の芯から元気になる。
 目の前にはたくさんの料理、デザート、大盤振る舞い。私はどれから食べようかなんて迷う暇も無く、目についたものをどんどん口へと入れていく。
 頬張れる幸せってなんて素敵なんだろう。ありふれたことだけど、今の私にはその大切さが身に沁みるほど分かる。 もちろん食べ物だけじゃない。傍にいてくれる友達、受け入れられる居場所、修学旅行でみんなと食事ができることに、私は心から感謝をしていた。
 だから今日はその感謝を胸に、お腹いっぱい食べよう。そう思って次のお皿に手を出しかけ
て、横に置いていたグラスに肘がぶつかる。
「あっ、目良さん危ない」
 こぼれそうになったそれを手で押さえて、彼女はほっとしたように笑った。
 彼女は私のクラスで一番、綺麗な子。綺麗なだけじゃなく、優しくて、あたたかくて、誰からも好かれるような、そんな人。
 私がお礼を言うと、彼女はまた微笑んだ。そして取ろうとしたそのお皿を、わざわざ引き寄せてくれる。
「はい、どうぞ」
 彼女の笑顔に、私は思わず口いっぱいに入っていた食べ物をごくりと飲み込んだ。 それはきらきらと眩しくて、まるで昔見た外国の飴細工のように輝いていた。
 私はもう一度お礼を言って、彼女が近づけてくれたお皿を見つめる。 砂糖とスパイス、素敵な何か。いつか読んだ詩を思い出して、お箸を持ち上げる。
 彼女みたいな女の子はきっと、それにもっとたくさんの、素晴らしいものが加えられて出来ている。

 楽しそうに笑う彼女を横目に、スプーンですくった新しい料理を頬張る。 ほんの少しだけ、思ってしまったことには蓋をして。目の前に踊る美味しそうな料理に、私はまた没頭した。


(綺麗で優しい女の子。食べたらどんな味かしら?なんて)