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結局のところオレの根本は純愛志向が強いのかもしれないな、と思い始めていた。
先にくる欲求はあれど、身体が繋がれば心など、なんて割り切った考えにはどうしても至れないし、何だかんだと相手の言動を気にしてしまいがちだった。
――いや、何だかんだどころか近頃はめちゃめちゃに気にしている気がする。
姿を見かけると何してんのかなーとかごく自然に考えてしまうし、何なら声だってかける。何かをしていてもごく自然に考えの中へ入り込んでくる存在を、自分から受け入れているのだ。
やばいな、コレもう本気で恋だな。しかもかなり純情な系統の。
ただそうやって一人再確認している場所が、ぬるつく液体でどろどろに汚れたシーツの上、男三人で盛大に暴れた後でなければ説得力はあった。
「あーもうめちゃくちゃだなコレ――」
あまりの状況に呻き声が洩れる。言っていることとやっていることが違うと自分でも頭を抱えるしかなかった。
とはいってもいつまでも呻いていても仕方ない。とりあえず汚れたシーツを剥ぎ取って、新しいものに替える。
日が昇りきらない午前四時、オレは黙々と片付けをしていた。
洗濯は夜が明けてからこっそりする予定だ。後処理も最早手慣れたもので、考える間もなく身体が動く。
とりあえず綺麗になったベッドに一息吐いて、オレはローテーブルに置いていたペットボトルの水を一口飲んだ。熱に浮かされた思考が少し浮かされたクリアになると共に、先程の考えがまた頭を埋める。
いや本当に、心と身体が全く別の方向に動いているのは自覚している。
ただどうにかしようとする度にあの熱のこもった瞳にとらえられて抗えなくなるのだ。
だって考えてもみてほしい、あの斉木さんが、大抵のことは動じず受け流し、顔にすら出さない斉木さんが、オレのことをどうしたらいいか分からないといった顔で見てくるのだ。しかもびっくりするほどの熱をふんだんに込めて。
その上いざ事を始めれば自分の欲に戸惑いながらもぐずぐずに乱れだして、最終的には次の動きに気をやる暇も無いほど快感に浸り始めるのだ。
そんなものもうどうしようもない。一緒になって徹底的に溺れて沈むしかない。理性も建前も全部横に放って、夢中になるしかないだろう。
扉が開く音がして、オレは意識を目の前に引き戻して顔を上げた。
シャワーを浴びてさっぱりした斉木さんがそこにはいた――のだが、どうにも熱が下がりきっていないようにみえる。
オレはその理由と経緯にすぐさま思い至ってしまって、斉木さんの後ろに立つ男に視線を向けた。 案の定、ばつの悪そうな顔をしている窪谷須に苦く笑う。
まあそうなるだろうなとは思っていた。二人で風呂に言った時点でそういうコースなのは容易に予想できた。それぐらい斉木さんでなくとも分かる。
――もっとも、オレたちの中で誰よりも先見の明を持つ斉木さんは、その可能性に何の抵抗も持たなかったようだが。
「……斉木さん顔エロいっスよ」
オレを見る斉木さんの目は、冷静に見えるのにどこか頼りない。 ベッドに腰掛けたオレが柔らかく微笑んで手招くと、斉木さんはベッドに腰掛けるオレへ向かって歩いてきた。
近付いてきた斉木さんの手を引いて、膝の上に乗せるように抱き込む。温かい身体と石鹸の香りに何とも言えない充足感が込み上げるが、耳の近くをくすぐる熱い吐息にスイッチがあっさり切り替わる。
何てことはない、オレだってさっきの思考の所為で火が付き始めていた。 軽く反応している下半身を摺り寄せれば、腰は逃げを打つのに身体は離れていかなくて一気に煽られた。
斉木さんの頭に手を伸ばし、引き寄せるようにして口付ける。舌を絡めてじゅるじゅると音を立てて吸いながら唾液を何度も飲み込んだ。
躊躇いも替えたばかりのシーツも頭にない。だって斉木さんが欲しがっているのだ。やることなんて決まっている。
「あー……」
「何スか」
「いや、色々考えてたのに、一気にキた」
「はは、オレも」
多少の差異はあれど、同じようなことを考えていたであろう窪谷須が近付いてきて、湿ったままの斉木さんの髪に触れる。 大切なものに触れるようなその手つきに、オレも優しく労るようにその肌に触れた。
斉木さんの身体が微かに身じろぐ。 ずらした下着の先、先端を濡らす性器を辿り、緩やかに開く穴をそっと広げて、苦しくないかと問いかけた。
考えていたことが全部吹き飛んで、目の前の斉木さんから離れられないのだから、これはもおう純愛以外の何物でもない。
そう思いながら窪谷須と共に髪に触れると、もの言いたげだった斉木さんの視線が、珍しく照れたように宙をさまよった