ないものねだる

 

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真琴×京 R-18「恋をする」 本文サンプル

 

 微睡みを繰り返しているような心地良さの中にいた。
 シンプルかつ機能的な部屋、落ち着いた照明のリビング。小さめのソファに深々と腰掛けて、程好い温度で淹れられた好みの紅茶を味わっている。
 夜は更け、世界は自然な暗闇に包まれている。既に入浴も済ませて、あとは眠るだけの状況もまた、穏やかな空気をより和ませる要因だった。
 着ている部屋着は自分用として置く為に買ったもので、緩い素材がゆったりと肌を包み込んでいて心地良い。そのまま身体を倒せば、時間をかけることなくすぐにでも眠ってしまえるだろ
う。
 だが彼は思うだけで実行はしない。その魅力的な選択肢を選ばない理由は、ここがベッドではないからといった自制心に基づいたものだけではなかった。
「京さん」
 空になったカップをテーブルへ置き、声がした方へ身体を向ける。眠らない一番の理由である彼が、浴室から戻ってきていた。
 同じようにくつろいだ服装になった真琴は、手にしていた水の入ったグラスをカップの隣に置いてから、京の肩に触れた。
「お待たせしました。……眠そうですね、大丈夫ですか」
 柔らかい真琴の声が耳に馴染む。
 黙って頷く京に、真琴は気遣わし気な視線を向けたまま唇を緩めた。
「寝ましょうか。先に行っていて下さい――京さん?」
 カップへと伸ばした手を捕まえられて、真琴は戸惑った表情で京を見つめる。
 京は掌を重ねるように指先を合わせ、広げさせた真琴の手を自分の首へと触れさせた。視線を合わせたまま、真琴が僅かに身じろいだ。熱を持った首から掌を介して、どくどくと巡る血の流れが伝わり、真琴の腹の底へ緩やかに灯を点していく。
 見つめた瞳の奥に確かな欲を感じ取って、真琴は指先を滑らせて服の下へ潜り込み、鎖骨を撫ぜた。軽く頭を傾け、触れやすいように首元をさらす京の姿に、点った火が更に煽られるのを感じる。
「真琴」
 名前を呼んだ声は、思っていたよりずっと欲に濡れていた。
 眼鏡の奥の瞳を一瞬眇めて、真琴は京から手を離した。置いたままだったグラスを持ち上げ、半分程残っていた水を飲み干す。もう一度名前を呼ぶ前に、水の味がするその舌に声を絡め取られていた。

<中略>

 来栖真琴という男は思慮深く聡明で、一見すると取っつき難く感じるところもあるが、決して情に薄い訳ではない。
 ただ京と同じくどこか器用でない節があって、それが時折京を躊躇わせた。

 絞られた照明の下で、シャワーを浴びてさっぱりとした身体を横たえ、うつらうつらと微睡
む。隣にいる真琴は既に殆ど寝入りかけていて、京はその横顔を存分に眺めることが出来た。
 こうやって傍で寝顔を見ることにも大分慣れてきた。
 最初の頃は何かと新鮮な思いでなかなか寝付けなかったり、寝起きの顔を間近で覗き込まれて少なからず狼狽えたりもしたが、今はかなり自然な感覚で過ごせている。
眼鏡を外した真琴の、すっと整った鼻梁に目を向ける。
 近頃何度か頭を過っていた真琴の言葉を、京は思い返していた。
 思いを伝えて、伝えられて暫くした頃、真琴は真剣な顔つきで話し出した。
「……僕は以前、恋人は将来の伴侶を見据えて――といったようなことを言いましたが」
 確かに、京自身その言い分には聞き覚えがあった。実直かつ堅実な真琴らしい感覚だと納得した記憶もある。
 黙ったまま次の言葉を待つ京に、真琴の揺れることのない視線が向けられた。
「京さんは、それについて考える必要はありませんから」
 思わず反射的に頷いたものの、京には真琴が言わんとしていることを正確に理解できている自信がなかった。
 必要がない、というのはどういうことだろう。根本的な問題として、同性である自分達が法的に結婚することは不可能だ。伴侶になり得ない自分に対して、気にしなくても良いという気遣いか。そう考えるのが自然だと、京自身何度も結論付けている。
 しかし、それでもどうしてか、隙間風のように冷えた考えが通り過ぎていくのを防げない。
たとえばこれは一時の関係で、期限がある。将来のことも見据えて、あくまで短期的な付き合いをしようということなのだろうか。
 真琴の性格上、そんな答えは有り得ないと分かっているのに考えてしまう。真琴の思いを受け止め、同じように思いを受け入れられていることを感じているからこそ不安が過る。失うことを恐れてしまう。
 胸が詰まる感覚を溜息でごまかして、京はゆっくりと深呼吸を繰り返す。
 真琴のことを信じているのだからすぐさま訊いてしまえばいい。分かっている。それでも言葉と迷いが堂々巡りで、結局二の足を踏んでしまう。深みに入り込んでしまう。
 京は目を閉じ、静かな真琴の呼吸に耳を傾けた。少しずつ眠りへと誘われながらも、不穏な考えがノイズのように思考に入り乱れる。
 短期的な付き合いなど有り得ない。しかしもし、もしそんな関係が存在するとするなら。
「――真琴」
 終わりを思いながら繋げる恋というものは、何とやりきれないものなのだろう。

<以下抜粋>

「――どうか、しましたか」
「今日は……真琴のしたいようにしてほしい」
「僕のしたいように、ですか?」
「真琴はいつもオレに気を遣っているだろう。オレも、真琴に応えたい」

 京の言葉に、真琴は黙ったまま逡巡していたものの、やがて分かりました、と頷いた。
こういった行為が全てではないと分かってはいるが、相手に少しでも喜んでもらいたいという思いは変わらなかった。
 真琴の唇が鎖骨に触れる。そのまま首、耳と辿られて、耳朶を擽るように食まれた。柔い刺激に京の身体がびくりと揺れる。
「誓って痛くはしませんが――少し、抑えが利かなくなるかもしれません」
 顔を上げた真琴に告げられて頷く。
 自制心の強い真琴は多少、羽目を外してもいいかもしれない。そんな言葉を返した京に、真琴はすっと目を眇めた。
 唇を吊り上げる笑い方は少し意地の悪いものだった。感じ取った不穏な気配の正体を、確かめる前に追い詰められる。
「京さんが、ですよ」
 その言葉の意味を、京は身をもって知ることになる。


宗大・吉葵・シェリマイコピー本「First」 本文サンプル

 


◇宗介×大和

「宗介はもっと、何ていうか――俺に対してしたいことをすればいいと思うんだ」
 何の脈絡もなく、そいつが俺に向かって言う。
 俺の部屋、二人きりのその状況で、堂々とそんなことを言えるそいつは、絶対に深い意味など匂わせてはいない。
「……意味も分からず口走ってんじゃねえよ」
「意味ならわかるぞ?」
 低く唸るようになった俺の牽制に、そいつはやたらと自信満々に胸を張った。
 更に言い返そうとした言葉は、見事に遮られる。目の前のそいつはあろうことか俺に近付いて手を伸ばし、真正面から抱き締めてきた。不意打ちでくらう他人の体温は想像以上の刺激で、俺はそいつを引っぺがすことも出来ずに硬直する。
「こういうこと、だよな?」


◇吉宗×葵陽

 俺の部屋に入って三十分、俺は漸く腹を括った。なあ葵陽、と呼び掛けた声が自然であるようにと願ってやまない。
「キスとかしてみる?」
 遠回しな誘い文句に、葵陽は目を丸くして俺の顔を見た。驚いたようなその顔に少しずつ不安が広がっていく。背中に嫌な汗すら感じる。
 やっぱり外したかと内心びくびくしながらも、やっとのことで平静を装う。もし外していたとしても、なるべく自然でいられるように。
「うん」
 少しの間の後、あっさりと頷いた葵陽を見て、俺は思わず固まってしまった。
 もちろん頭の中ではあらゆるOKを想像していたが、こんな風に何の躊躇いもなく頷かれるとは思っていなくて一瞬どうしたらいいか分からなくなる。
 すると頷いたきりじっと俺に視線を注いでいた葵陽が、ふと唇を緩めて微笑んだ。その妙に気まずい感じの笑顔に、俺は何となく追い詰められたような気分になる。


◇シェリー×マイリー

「……なんか、すごくドキドキしてる」
 身体を離し、向き合ってそう呟くシェリーは、たしかに普段より少し顔を赤らめているようだった。
「シェ、リーもドキドキしてるの……?」
「何その言い方。私だって緊張するよ。……相手がマイリーだから、余計にね」
「えっと……」
 特別だと、改めて真正面から囁かれて、一気に体温が上がるのを感じる。
 とっさにそつのない受け答えなど出来る筈もなく、何も言えないまま固まってしまう。そんな自分の姿にも、シェリーは何だか愛しげに目を細めて微笑んだ。
「それよりさ、シェリーも、ってことは、マイリーもドキドキしてるってこと?」
「それは……あの、その……」
「答えて、マイリー。教えてくれなきゃ分からない」
 強い眼差しで射抜くように瞳の中を覗き込まれる。
 真剣な表情のシェリーは、不意にいたずらっぽい笑みを浮かべて、背中を抱く腕に力を込め
た。
「――嘘。ホントは分かってる。伝わってくるから、マイリーの鼓動」