彼と彼ら
1.
「おいなあ見てみろよかっけえだろ?」
そう言って楽しげに見せられる雑誌には、自分にはよく分からない数々のバイク。
それでもその、昔の面影なんてまるで感じさせない笑顔につられて笑う。 何かに夢中になる姿はいつも眩しい。
歩み寄って知りたい。そう思わせられる横顔に目を細めて、一緒に雑誌を眺めた。
2.
「窪谷須君は特にスポーツもしてないんだよね?やっぱりすごいなあ」
ジムでのトレーニングの後、そう言って褒めると決まって何故か複雑な顔をされる。何か悪いことを言っただろうか?
思い当たらなくて首を捻っていると、呟く声。
「まだ本調子じゃねえんだ」
湧き上がる闘争心、負けてられないなと笑った。
3.
「目ぇ結構悪いんか? おまえ?」
「い、いや……何でだよ」
「んなモンしょっちゅうかけてたら大変だろーな」
「そうでもねえよ」
「お?そういや相棒もずっとかけてるもんな」
「ああ、斉木か。そうだな」
「ま、何かあったら言えよ。眼鏡には慣れてったからよ!」
「……何なんだ?」
4.
「あ、元ヤンの人」
声をかければぎろりと睨まれ思わずたじろぐ。
「幽霊に聞いたんス」
素直に答えると目つきの悪いまま首を傾げた。話には聞いていても半信半疑のようだ。
「もう煙草とか無いんスか?」
「お前確か坊主だろ」
「だから内緒っスよ」
悪い男ってモテそうだし? 軽い言葉に、硬派な男の睨みが刺さった。
5.
一般人に合わせようとするその努力は結構だが、どうしてそれに自分が関わるのか理解不能
だ。
借りてきたDVDは確かに悪くないラインナップだ。だが誰かと見たいなら他をあたってくれないか。
期待と少々の不安が混じった視線が一心に向けられる。
……ああそうだ選択は悪くない。だから他も呼んで来い。
(窪谷須さんと誰かたち)