For you Give me
盛大に祝われたことはあっても祝ったことなんて殆どない。もちろん、誕生日の話だ。
For you Give me
祝われた経験は言わずもがな、うちの両親によるものだ。年を重ねるにつれその規模は収まるどころか、年々派手になっているぐらいだ。
しかし祝う経験となると言葉に詰まる。元々そんな関係性の人間なんていなかったし、必要だとも思わなかった。寧ろ、出来るとも思っていなかったのだ。
「おう、ラーメン行こうぜ相棒」
相変わらず気付けば傍にいる男は、普段と変わらない様子で聞き飽きた言葉を吐く。僕は有り得る訳がないのに、心の中の些細な葛藤を気付かれたかとちらりとでも思った自分に嫌気が差した。全く、調子が狂う所の話じゃない。
「フン……そういえば今日はお前がこの世に堕ちた日か。業が深いな」
「お? どういう意味だよチビ」
近寄ってきた海藤の言葉に、言われた当の男は間の抜けた顔で首を傾げている。 律儀に日付を覚えて祝ってやろうと思う気はあるくせに、作られたキャラクターの所為で真意が全く伝えられていないのは最早見慣れた光景だった。
しかし本人も自覚はしているらしく、「オメーもラーメン行きてえのか?」等とずれたことを言う男に、珍しく素直に頷いていた。どうやら、形を変えて伝えるつもりらしい。
海藤と同じ手に乗るのはどうも癪だが、それならば僕も合わせる他ないだろう。
僕は立ち上がり、呼ばれるがままに二人の後をついて歩き出した。
「あー、やっぱあそこうめえよな相棒」
酷く回りくどい言い方をしていたが、要約すると母親に買い物を頼まれたらしい海藤と別れ、成り行き上仕方なく連れ立って歩く。 赤々と染める夕日が、近付く一日の終わりを示しているのに、結局答えは出ないままだった。
何かする? こんな時間に?
何かあげる? いやでもこいつは一体何が欲しいんだ。
「相棒?」
立ち止まった僕を、何事かと男が振り返る。相変わらず、思考は雑然としていて全く読めな
い。
何が、欲しいんだ
疎んでいた能力に頼りたくなる。何かしてやりたいのに、何を望んでいるのか分からない。こんな感覚は知らない。分からない。
拙い感情に振り回されて、子供のようだと自嘲する。 僕はただ、答えを求めて影に目を落とした。
「……うまかったよなあ、ラーメン」
迷い続ける僕をすくい上げたのは、そんな言葉だった。視線を上げると、男はただ満足そうに笑う。 男の真意は一切分からないのに、何故だかその笑顔は、祝われていることを自覚しているように見えた。
まさか、こんなことが? 連れ立って食事をした、何ならいつもと変わらないそれでよかったのか?
「また行こうぜ、な?」
おめでとうと、言葉にすることすらできない僕を吹き飛ばすような男に、自然と口角が上がる。 もしかするとこいつは、特別なことなんて何も望んでいないのかもしれない。僕は少し離れた所から、男の背中を追いかける。
誕生日と言いながらも、もらったのは僕の方だった。誰かを祝おうだなんて想いは、もうずっと抱くことなんてないと思っていたのだ。
ああもう本当に、調子を狂わされる。だけどそれは嫌いじゃない。それにその衝動には、まだまだ勉強の余地がある。
「おーい、早く来いよ相棒。置いてくぞ?」
まずは、言葉にすること。 いつか言葉にして伝えることができたなら、直接言うよ。おめでとうと、あと。 ありがとう。